我々は九州大学医学部附属病院およびその関連施設で治療中の痴呆患者において病歴聴取、神経心理学的検査および画像検査により、28例の前頭側頭型痴呆を診断し、それらの症例の白血球よりDNAを抽出した。また病理学的検索により5例の前頭側頭型痴呆を診断し、それらの症例の凍結保存脳よりDNAを抽出した。計33症例の前頭側頭型痴呆症例のDNAにおいてPCR法による遺伝子増幅後、RFLP法による解析を行い、プリオン遺伝子の異常の有無に関して検索を行った。検索を行ったのはプリオン遺伝子に関してこれまで変異が知られているコドン102番、105番、117番、129番、145番、178番、180番、183番、200番、210番、217番、219番、232番に関してである。また過剰挿入の有無に関しても検索した。その結果、病的な変異は1例においてコドン180番のグルタミン酸からリジンへの変異が見られた。他の32例の前頭側頭型痴呆においては、プリオン遺伝子に関して病的な変異は認めなかった。32例中1例の臨床的に診断された前頭側頭型痴呆においてプリオン遺伝子の異常が見出されたことから、臨床的に前頭側頭型痴呆と診断されている症例の中には遺伝子異常によるプリオン病が含まれている可能性が示唆される。 タウ遺伝子の異常に関しては、新たな遺伝子変異の報告が相次いでいるが、遺伝子変異の報告された部分をPCR法による増幅後、直接塩基配列決定する方法により検索中である。
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