我々は計33症例の前頭側頭型痴呆症例のDNAにおいてPCR法による遺伝子増幅後、RFLP法による解析を行い、プリオン遺伝子の異常の有無に関して検索を行った。検索を行ったのはプリオン遺伝子に関してこれまで変異が知られているコドン102番、105番、117番、129番、145番、178番、180番、183番、200番、210番、217番、219番、232番に関してである。また過剰挿入の有無に関しても検索した。その結果、病的な変異は1例においてコドン180番のグルタミン酸からリジンへの変異が見られた。他の32例の前頭側頭型痴呆においては、プリオン遺伝子に関して病的な変異は認めなかった。32例中1例の臨床的に診断された前頭側頭型痴呆においてプリオン遺伝子の異常が見出されたことから、臨床的に前頭側頭型痴呆と診断されている症例の中には遺伝子異常によるプリオン病が含まれている可能性が示唆される。 タウ遺伝子の異常に関しては、29例の前頭側頭型痴呆において、これまでに報告されている16種類の異常変異の有無に関して調べた。検索方法としてはDirect sequencing法を用いた。検索した29例においてはいずれも、報告されている変異を認めなかった。この結果からタウ遺伝子の異常によりおこる前頭側頭型痴呆は、日本においてはまれであることが推測される。今後はタウ遺伝子の他の部位の検索も必要と考えられる。
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