研究概要 |
精神疾患においける主要な情動・記憶・意欲障害である気分障害(うつ病)・アルツハイマー病(AD)・慢性精神分裂病の死後脳を用いてcAMP産生(アデニル酸シクラーゼ)系及びIPs産生(ホスホリパ ゼC)系の2つのセカンドメッセンジャーの産生機能に着目し、脳情報伝達系においての共通性・相違を明らかにするためことを目的とした。 うつ病患者死後脳のアデニル酸シクラーゼ(AC)活性の基礎活性値は低下していたが,I型ACの蛋白質量に帰因すると推定されるCa^<2+>調節性のcAMP産生機能の亢進が認められた。さらにうつ病群においてはcAMP産生機能の低下とこれに伴い転写因子である総・リン酸化CREBの低下が認められた。 ADではI型AC量低下に伴うCa^<2+>刺激性ACの減弱とリン酸化CREBのみの低下が認められた。精神分裂病においてはAC活性のEGTA存在下では基礎活性値、マンガン刺激活性は不変であったが,I型AC量増加伴うCa^<2+>刺激性ACの亢進が認められた。従ってうつ病とADに関しては一部のcAMP産生機能は低下していることが共通しているが、Ca^<2+>調節性による変化は異なっていた。一方慢性精神分裂病ではcAMP産生機能は増強が認められた。さらに単極性うつ病と精神分裂病群双方に共通して5HTに関連したIPsシグナルカスケードの亢進が生じていた。数種類の抗うつ薬が5HT刺激性IPsの産生をin vitroにて阻害した。これらは症候学的・薬理学的に示唆されているうつ病状と精神分裂病の陰性症状の共通性の生化学的背景を推察させる所見と考えられた
|