新しく開発したブチリルコリンエステラーゼ(BChE)染色法を応用し、ラット前頭葉の内側部と外側部にBChE陽性線維が分布することを確認した。これは、従来の組織化学によるコリン作動性神経線維の分布とは明らかに異なるものであった。その線維は内側前脳束から内外側に分かれて上行し、基底核淡蒼球の腹側部から前頭葉にいたる経路をたどっていた。皮質下にはこれらの線維を投射すると思われるBChE陽性神経細胞集団があり、視床前核などの視床内亜核群と中脳脚橋核/背外側被蓋核の中脳コリン作動性神経細胞核群が含まれる。これらを鑑別する方法として、fluoro-gold(FG)を用い逆行標識法で標識された中脳神経細胞のうち、脚橋核、背外側被蓋核のBChE陽性神経についてBChE組織化学との二重標識法で検討した。ならびに、大脳皮質前頭葉に投射している視床前核群のBChE陽性神経からの投射によるものとの識別を行うために脚橋核、背外側被蓋核の神経細胞をibotenicで傷害する寒験を行った。前頭葉外側部のF溶液注入では、脚橋核、背外側被蓋核に、標識された大型神経細胞が一部観察された。その数は非常に少数で、全切片を観察しても8〜15個(5匹のratで平均11個)であった。多くは同側の脚橋核に限局しており、同側の背外側被蓋核には0〜1個観察されるのみであった。対側部脚橋核では0〜2個であった。脚橋核内でも分布は最吻側に多く、尾側には認められなかった。このうちほぼ60%がBChE陽性であった。IAによる傷害では、脚橋核ならびにその周辺に限局して傷害を受けた場合は、傷害側の前頭葉外側部のBChE陽性線維が消失していた。他方、前頭葉内側部のBChE陽性線維は変化がなかった。すなわち、中脳脚橋核のコリン作動性神経から前頭葉外側部に直接神経線維が投射することが確認できた。今後は、前頭葉内側部のBChE陽性線維を投射する部位を同定するつもりである。
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