ヒトにおいて精神分裂病類似の症状を引き起こすことが知られているphencyclidine(PCP)が、前頭前皮質ニューロン活動に及ぼす効果について検討するため、自由行動下及び麻酔下のラットを被験体として電気生理学的及び神経薬理学的実験を行った。自由行動下のラットにPCPを腹腔内投与(5mg/kg)した場合、投与後、5分以内に首振りなどの常同行動、移所運動量の増加等の異常行動が発現し、また行動異常開始とほぼ並行して内側前頭前皮質(mPFC)ニューロンの発火頻度も顕著な増加を示した。この発火活動の亢進は70分以上持続し、異常行動もほぼ同じ時間持続した。一方、麻酔下のラットのmPFCニューロンに対して、微小電気泳動法で直接PCPを投与した場合、mPFCニューロンの自発発火活動に有意な影響が認められなかった。しかし、PCPはグルタミン酸投与により生じるmPFCニューロンの興奮性反応を顕著に抑制した。以上の結果から、 (1)PCPの急性投与によりmPFCニューロンの発火活動の亢進が生じ、この活動亢進が行動異常発現に重要な役割を担っていること、(2)このmPFCニューロン活動の亢進はPCPのmPFCニューロンに対する直接作用ではなく、mPFC外からの興奮性入力の増強による可能性があること、が明らかとなった。そこで、次年度の研究においては、この興奮性入力を与えている部位とその伝達物質を特定する予定である。
|