昨年度までの研究で、ヒトにおいて分裂病様の症状をを引き起こすphencyclidine(PCP)をラットに対して腹腔内投与することにより、(1)内側前頭前皮質(mPFC)ニューロンの発火活動が長時間にわたって亢進する、(2)PCPをmPFCニューロンに対して局所投与しても発火活動の亢進が生じない、(3)PCPと同様の移所運動量亢進を引き起こすにもかかわらず、methamphetamine(MAP)はmPFCニューロンの自発発火活動にほとんど影響を及ぼさない、等の知見をえた。これらの知見から、PCPの全身投与によるmPFCニューロンの持続的発火活動亢進は、運動量増加等に伴う覚醒水準変化により生じた2次的効果ではなく、PCP固有の薬理作用であること、また、この発火活動の亢進がmPFC外からの興奮性入力により生じている可能性が示唆された。そこで本年度の研究では、PCP投与時にmPFCに主要な興奮性入力を与えている領域を特定することを研究目標とした。無麻酔、自由行動下のラットで、mPFCニューロンの発火活動を記録するとともに、解剖学的にmPFCへ興奮性入力を送っていることが知られている同側の脳内領域(腹側海馬CA1領域、腹側海馬支脚等)にマイクロダイアリシス用プローブを挿入し、リバースダイアリシス法によりPCPないしMK801(NMDA受容体選択的アンタゴニスト)を局所還流した。この結果、腹側海馬支脚近傍にPCPないしMK801が潅流された場合のみ、mPFCニューロンの発火頻度が有意に上昇した。この時、寝ていたラットが起き上がる、急に探索行動を始めるといった行動変化がしばしば観察された。これらの結果から、海馬支脚ニューロンに対するPCPの直接的作用がmPFCニューロンの自発発火活動亢進を引き起こしている可能性が示唆された。まだ、データ数が十分とは言えないので、さらに例数を積み重ねるとともに、PCPが海馬支脚のニューロン活動に及ぼす効果についても検討していきたい。
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