研究概要 |
従来、精神分裂病に対する認知機能障害の研究は、複数の指標を用いて脳機能を多面的に評価した研究はまれであった。本研究では、複数の生物学的なマーカーを組み合わせることにより、精神分裂病の異種性について明らかにすることを試みた。1.精神分裂病のminor anomalyに関する研究:74例の精神分裂病患者を対象に、一部改変したWaldropのスケール(日本語版Waldropのスケール)を用いてmimor physical anomaly(MPA)を評価し、健常者の所見と比較するとともに臨床的指標および頭部CT像との関連を検討した。健常群と比較して患者群では,男女とも日本語版Waldropのスケールの得点が有意に高得点であった。患者群においては,日本語版Waldropのスケールの合計点とBPRSの合計点,頭部CT像の脳実質面積、脳室面積との間に有意な相関を認めなかったが,低MPA群と比較して高MPA群において,頭部CT像の脳実質面積、頭蓋内腔面積が有意な低値を示した。2.精神分裂病のP3aとP3b:精神症状の安定した精神分裂病患者30例を対象に、oddball課題とdistraction課題を用いて事象関連電位を記録し、健常者の所見と比較した。この結果,健常者と比べ患者群において,両条件における標的刺激とdistraction課題のnovel刺激に対するP300振幅の有意な低下,oddball課題の標的刺激とdistraction課題のnovel刺激に対するP300潜時の有意な遅延が認められた。またScalp current density (SCD)による検討では,novel刺激に対する患者群のP300は前頭,正中部における広がりを欠いていた。以上の結果は,精神分裂病におけるP300の異常は,P3bの異常のみに基づくものではなく,P3aの異常も同程度存在することを示唆した。
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