精神分裂病を生物学的に研究することの困難さの原因として、その多様性があげられる。DSM-IVにおいては、精神分裂病を単一疾患として記述しているが、精神分裂病には異種性がみられる、すなわち生物学的背景の異なる幾つかの疾患による症候群であるという考え方を指示するいくつかの研究も報告されている。本研究においては、精神生理学的および神経心理学的指標に基づいて、精神分裂病の異種性について検討を行った。具体的には、[1]精神分裂病患者を対象に、2種類の課題を用いて事象関連電位のP3aとP3bを記録し、臨床所見との関連を検討した。[2]精神分裂病患者を対象に、Harrow思考障害スケールを用いて思考障害の重症度を評価し、臨床所見との関連を検討した。またWisconsinカードソーティングテストを施行し、その課題成績と臨床所見の関連を検討した。[3]精神分裂病の微小身体奇形を評価し、臨床所見との関連を検討した。[4]精神分裂病の生活障害と臨床所見との関連を検討した。また社会復帰訓練と認知機能の関連について検討した。[5]多チャンネル脳波(120チャンネル)を用いて、注意関連電位、ミスマッチ陰性電位などの成分の基礎的な検討を行った。この結果以下のような研究成果が得られた。1.精神分裂病においては、P3bの異常だけではなくP3aの異常も存在するが、臨床所見との関連は明確ではない。2.精神分裂病における思考障害はP300振幅の異常と、前頭葉機能障害はP300潜時と関連がみられる。3.精神分裂病における微小奇形は、頭部CTにおける形態学的異常と関連する。4.精神分裂病の生活障害は認知機能と密接に関連し、社会復帰訓練には比較的保たれている手続き記憶を利用することが望ましいことを明らかにした。5.精神分裂病の認知機能と抗精神病薬療法、陰性症状との関連を考察した。6.多チャンネル脳波等を用いて、事象関連電位の成分(注意関連電位、ミスマッチ陰性電位)の基本的な性質を明らかにした。
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