これまでに、Differential Display法により抗うつ薬長期投与によりラット脳内で特異的に発現が増減している遺伝子/ESTを約200種同定し、塩基配列を決定した(Anitdepressant related gene : ADRG1-200)。その中で、 1 ADRG-27は、Heat Shock Cognate Protein(HSC)70の新規スプライスバリアントであることが明らかとなり、HSC49と命名した。RT-PCR法を行ったところ、HSC49は、薬物投与群において有意な発現の増加が認められたが、HSC70の発現は変化しないことが明らかとなった。 2 ADRG-34は、全塩基配列を決定した結果、Ring H2 finger motifを有するタンパクをコードすることが予測された。特異的プライマーを用いてRT-PCR法を行ったところ、薬物投与群において有意な発現の増加が認められた。現在、作製した抗体を用い、抗うつ薬によるタンパクレベルでの発現の変化と共に、免疫組織化学的手法を用いて、分布等の検討を行っている。 3 ADRG-55は、神経終末のカルシウムチャネルを制御することにより神経伝達物質の放出を調節しているcysteine string proteinであることが明らかとなった。特異的プライマーを用いてRT-PCR法を行ったところ、抗うつ薬の長期投与において有意な発現の増加が認められたが、単回投与では変化しないことが明らかとなり、抗うつ薬の奏効機転に関与している可能性が示唆された。 現在、ここに示した以外の個々のクローンについても、順次、発現の変化を再確認し、定量的解析を行っている。発現変化が再確認されたものについては、in situ hybridization法により脳内分布を明らかとし、その機能の検討を行い、未知遺伝子についてはその全長を決定している。我々の研究成果は、副作用の少ない新しい作用機序の抗うつ薬の創薬、新たなうつ病の生物学的診断法開発への可能性を秘めた画期的な作業仮説を呈示するものであると期待される。
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