本研究の目的は、第一に、片側海馬キンドリングから構想された「両側海馬キンドリング」モデルを完成させること、第二にそのモデルに対する塩化セシウム(CsCl:過分極性電位依存性Naチャネルの阻害剤)の効果を検討し、「過剰抑制が異常興奮を引き起こす」という仮説を検討することであった。 第一の点に関しては十分に達成できた。すなわち、17匹の全動物が全身けいれん段階までに進み、この完成率の比較(従来の片側キンドリングモデルでは59%)において有意差(p<0.01)を示したので、モデルとして確立できたと考えられる。しかし、完成までの刺激回数が平均28回で、従来モデルの完成群の19回に比較して有意に延長した(p<0.02)。したがって、両側海馬の同時キンドリングという手法は海馬内の興奮系の亢進とともに、抑制系の亢進ももたらすことが示唆された。 第二の点に関しては、まず準備段階として実施した急性実験において有意義な結果が得られた。麻酔下でおこなったものであるが、電気刺激によって誘発される発作波に対するCsClの効果を検討したものである。生理的食塩水の注入前後での発作波誘発閾値は、それぞれ183±8μAと190±8μA(n=7)であった。対して、100mM・CsCl注入前後でのそれは、167±7μAと316±9μA(n=7)という結果であった。10mMCsCl注入前後では、132±6μAと318±10μA(n=6)という結果であった。これらは、CsClの注入によって有意(p<0.01)に発作波誘発閾値が上昇したことを示している。したがって、「過剰抑制によって発作波という異常興奮が起こる」という仮説が部分的に証明されたと結論された。このCsClの脳室内注入と両側海馬キンドリングを組み合わせて慢性実験(n=2)を行ったが、1例は完成までの刺激回数が延長したものの、他の1例は短縮するという相反する結果であった。 今後、慢性実験の回数を増やすことや海馬内への直接注入も検討することによって、効果が再現されるならば、CsClの抗てんかん薬としての可能性が高まるものと考えられる。
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