研究概要 |
Parkinson病の原因遺伝子産物である水溶性のシナプス前タンパクであるNACP(α-synuclein)は神経細胞と膠細胞内で不溶化し直径10-15nmの"NACP線維"(Arima et al,Brain Res,1998)を形成し細胞死を引き起こす.この神経変性過程はParkinson病,Lewy小体型痴呆,および多系統萎縮症(MSA)に共通する病態である.平成12年度は以下の2研究を行った. 1.多系統萎縮症(MSA)の星状膠細胞の変性の研究 11例のMSA剖検脳の橋,小脳白質,被殻,中心前回皮質・白質を抗GFAPと抗NACP抗体による二重免疫染色により検索したところ,3例の橋,被殻,中心前回白質でNACP陽性封入体をもつ星状膠細胞が見出された.二重免疫電顕検索ではこのNACP線維は12-15nm径で外表は毛羽立っていた.星状膠細胞には(1)突起が断裂し"アメーバ様変化"を示す細胞と,(2)数本の突起をたどりうる細胞の2種類が同じ部位に隣接して認められた.このアメーバ様星状膠細胞は星状膠細胞が細胞死へ至る変性状態と考えられた.NACP陽性封入体をもつ星状膠細胞が確認されたのは11例中3例と少数であるが,MSAでは星状膠細胞が正常に機能していない可能性があり,今後は神経栄養因子分泌や修復反応の変化について検討する必要がある. 2.MSAの細胞核内のNACP線維形成についての研究. NACP免疫反応性を示す核内封入体は検索した11例のMSAのすべてで神経細胞と希突起膠細胞に形成されていたが,星状膠細胞では確認できなかった.Parkinson病では10例の全てで神経細胞・希突起膠細胞・星状膠細胞には核内封入体は認められなかった.MSAの細胞核内封入体の多くはubiquitin化されていることから,ATP依存性にタンパク分解されていると考えられた.
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