生体部分肝移植を受けたレシピエント及びドナー56組中、精神障害は移植前にそれぞれ5.4%、1.8%、移植後1年以内はそれぞれ23.2%、7.1%であった。年齢別解析では、20歳以上に限定すると、移植後1年以内の精神障害出現率は68.8%とかなりの高値を示した。その多くは、移植後の術後せん妄であり、気分変調症、大うつ病、短期精神病性障害の順に多くみられた。なお、移植後の身体状況との間に有意な関連性はみられなかった。すなわち、移植後の経過が順調であるにもかかわらず、気分変調症や大うつ病などの気分障害がみられた点が興味深い。これらの症例では、移植前の家族内葛藤などの精神医学的問題が言語化されていないまま移植を受け、移植後にこれらの精神医学的問題が顕在化した。これは、移植前の段階で、詳細な精神医学的面接の必要性を示唆すると同時に、精神医学的な介入の必要性を示している。 一方、対照群のHIV/AIDS、がん患者も精神障害の有病率は同様に高く、有意差こそなかったものの、精神医学的介入の必要性が示唆された。 また重度の身体疾患患者にみられるうつ病の診断学的問題が浮き彫りになった。とくにうつ病の場合、不眠や食欲低下などの身体症状はうつ病の初期症状として重要なマーカーであるが、重度身体疾患の場合、これらのマーカーの特異性の欠如がみられ、従来の精神障害診断基準では正確で的確な診断を行うのが難しく、他の診断基準の必要性が示唆された。
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