<目的と方法>昨年度から、先端医療における精神医学的問題に関する臨床研究を、臓器移植患者を対象として実施してきた。昨年度はわが国で生体臓器移植を受けたレシピエントを対象に調査研究を実施したが、本年度は、米国において脳死臓器移植を受けたレシピエントに対しても調査研究を実施し、わが国の生体臓器移植患者と米国の脳死臓器移植患者のQuality of Life(QOL)の比較検討を行った。 <結果>米国の脳死移植患者のQOLは、わが国で生体臓器移植(生体部分肝移植あるいは生体腎移植)を受けた患者のQOLよりも、数値的にはかなり良好であるというデータが得られた。しかしながら、両者の単純な比較を行うのは危険であり、比較文化的な視点も交えて、詳細な検討を実施したところ、わが国の生体臓器移植を受けた患者は臓器提供者であるドナーへの罪悪感を深く持っており、これがQOLのスコアを低下させている要因であることが判明した。 精神医学的な面接においても、ドナーに対する罪悪感に起因するうつ状態の出現率はわが国の生体臓器移植に多数みられていた。 <結論>さらなる詳細な比較研究が必要であることは言うまでもないが、臓器移植を受けた患者に対する精神医学的側面を含めたQOLの向上を目指した医療が必要であり、なかでも生体臓器移植に関してはレシピエントとドナー間に生じる心理的な葛藤を含めた総合的な医療の実践が必要と思われる。
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