平成11年から13年までの3年間、先端医療における精神医学的問題に関する臨床研究を実施した。その研究対象は、先端医療である臓器移植を受けるレシピエント及びドナーをその中心とした。さらに関連対象として、ドナー家族にも研究対象を拡大し実施した。また腎移植を受ける腎不全患者のなかでも、血液透析患者に対する臨床研究を実施した。 方法は米国精神医学会で作成されたDSM-IVの診断基準に準じ精神医学的面接を施行し、さらに精神心理面に関する心理検査、生活の質を定量化するための質問紙などを用い行った。 その結果、生体部分肝移植後3ヵ月未満における成人レシピエントにみられる精神障害の有病率は50%を超え、その中心はせん妄、大うつ病であった。せん妄は術後せん妄であり了解可能なものであるが、移植が成功したにも関わらず、うつ状態の多さが目立った。その精神病理は、子どもから肝臓を譲り受ける親の罪悪感が密接に関連していることがわかった。これに対し、ドナーの精神症状はきわめて少なかった。一方、小児例でも精神症状はきわめて少ない傾向がみられた。生体腎移植でも同様の傾向がうかがえたが、生体部分肝移植に比べ精神症状の有病率は低値であった。移植後経過が長くなるにつれて精神症状は減少し、情緒状態の安定さがみられ始めたが、長期的な経過観察は不可欠のように思われる。
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