研究概要 |
(目的および背景)鉄芽球性貧血はミトコンドリアに鉄が沈着する一連の貧血の総称である。先天性鉄芽球性貧血のうち性染色体遺伝を呈するX-linked sideroblastic anemiaではヘム合成系の律速酵素である赤血球型Oアミノレブリン酸合成酵素(ALAS-E)遺伝子の変異が本疾患の発現に関与していると考えられているが直接的な証明はない。本研究では、申請者が樹立したALAS-E欠損ES細胞をin vitroにて赤血球へと分化誘導し、本遺伝子の欠損と鉄芽球という異常赤血球発現との因果関係を証明し、分化誘導された鉄芽球についてその特性を検討し、鉄芽球蓄積から貧血発症にいたるメカニズムを解明することを目的とした。(結果および考案)ALAS-E欠損ES細胞をマウスストローマ細胞OP9,と共にSCF, EPO添加培地にて赤芽球へと分化させたところ、形態上は野生型と変わらない赤芽球が得られた。この赤芽球は形態だけでなく、赤血球特異的遺伝子の発現レベルも野生型と変化がなかった。但し、ヘム合成がなされないため、白い赤芽球であった。また、ALAS-E欠損赤芽球では、ヘム合成系のイソフォームであるALAS-Nの発現は低下している一方で、ヘム代謝系の律速酵素であるHO-lの発現は亢進しており、さらに細胞内の鉄含量は野生型に比べ2倍以上も増加していた。また、細胞内の鉄含量の増加を反映して過酸化脂質の増加も認められ、酸化ストレス亢進状態にあることが示唆された。これらの結果から、ALAS-E欠損により赤血球分化は障害されないものの鉄代謝異常が惹起され、結果として酸化ストレス負荷による細胞傷害がもたらされる可能性が考えられた。この結果はALAS-E遺伝子の変異によるX-linked sideroblastic anemiaでの鉄芽球蓄積から貧血発症にいたるメカニズムを反映していると考えられ極めて興味深い。
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