研究概要 |
昨年度,MDM2によるp53蛋白の分解を抑制するARF遺伝子の発現欠損が,造血器腫瘍でも比較的増殖の早い腫瘍で認められ,同一のINK4A/ARF遺伝子座から発現するINK4A遺伝子の発現と比較して,予後と関連していることを見出した.すなわち,INK4A/ARF遺伝子座の欠失におけるp53経路の重要性が示された.本年度,ヒト腫瘍全般で高頻度に検出されるp53経路の変異がどのような機序で発生するのかを明らかにするため,p53遺伝子変異の続発ずるC-MYCと活性型H-RAS遺伝子共導入細胞を用いて実験を行った.細胞はラット胎児線維芽絹胞で,C-MYCと活性型H-RAS遺伝子の導入で形質転換した細胞をクローン化し,r選択とK選択によってもたらされる変化を解析した.r選択では,細胞密度の低い培養条件で細胞を継代し,増殖率rによって選択を行なった.一方,K選択では,増殖率ではなく生存率の高い細胞を選択するため細胞密疫の高い培養条件で細胞を継代した.r選択では.期待通り徐々に増殖率は高まり当初16時間の倍化速度が10時間程度に短縮した.と同時に,p53点突然変異株ではもう一方の野生型アレルの消失が次々に出現した.つまり,p53変異は増殖率rを高め,r選択下で有利に作用することが示された.一方,K選択ではp53変異(野生型アレルの消失)は必ずしも促進されず,r選択では見られない多倍体の台頭が観察された.これまで、p53変異は遺伝子不安定性を誘導し多倍体などの異数体出現の原因とされてきたが,rとK選択でp53変異と多倍体出現を分離することができた.今回は,INK4A/ARF遺伝子座については言及できなかったが,rとK選択が遺伝子異常の出現に重要な役割を果たしていることが示された.
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