研究概要 |
1.我々はこれまでに、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)がリンパ性白血病細胞の染色体に組み込まれ、世代間を遺伝することを発見した(Lancet 352:543,1998)。今回、HHV-6が染色体22q13に組み込まれている悪性リンパ腫例について、HHV-6の遺伝的伝播について検討した。この患者家系を調べたところ、患者配偶者にもHHV-6が認められ、FISH法で検討した結果、染色体1q44にHHV-6ゲノムが検出された。さらにこの両親から生まれた子にはHHV-6が1q44、22q13の双方に認められ、HHV-6が遺伝的に子孫に受け継がれることが示唆された。一般にHHV-6はほとんどの成人に潜伏感染しているが、ウイルス量は極めて少なく、通常のFISH法で検出されることはない。したがって、これは初感染後の一般的な潜伏感染とは異なると考えられた。 2.血液造血器腫瘍におけるヒトヘルペスウイルス感染について検討した。 (1)HHV-7とリンパ性白血病との閧連を検討した。33例の成人急性リンパ性白血病(ALL)、15例の小児ALL、13例の慢性リンパ性白血病についてHHV-7DNAをPCRで検索した。HHV-7は検出されず、現在までのところHHV-7とリンパ性白血病との明らかな関連は認められていない。 (2)眼付属器領域のMALTリンパ腫について、ヘルペス群ウイルスとの関係を調べた。12例の眼窩原発、2例の涙腺原発MALTリンパ腫について、Epslein-Barr virus(EBV)、HHV-6、HHV-7、HHV-8をPCR、in situ hybridizationで検索した。EBVは4例で、HHV-6は4例の症例で検出されたが、うちEBV、HHV-6の双方が検出されたのは2例でいずれも涙腺原発のMALTリンパ腫であった。HHV-7、HHV-8は検出されなかった。癌附属器領域のMALTリンパ腫の一部の症例にHHV-6、EBV感染が関与している可能性が示唆された。 (3)HIV陰性悪性リンパ腫患者に発生した進行性多巣性白質脳症(PML)の病変部にHHV-6の感染を確認した。PMLはその多くがHIV陽性患者に発生すると言われているが、血液造血器腫瘍患者に発生したPMLにHHV-6が関与する可能性を示唆する所見である。
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