ヒト悪性腫瘍よりの癌遺伝子の単離は、これまで主に癌細胞のゲノムDNAをマウス3T3線維芽細胞に導入しその形質転換をアッセイ系としてスクリーニングされてきた。しかしこの方法では、導入されたゲノムDNAの中で線維芽細胞においても良く働くプロモーターによって発現がドライブされる癌遺伝子しか単離されないという重大な欠陥があった。そのため造血器悪性腫瘍の原因遺伝子の単離を目的とした血液細胞を用いた新たなアッセイ系の開発が待たれていた。 我々は自治医科大学血液内科の協力で慢性骨髄性白血病(CML)急性転化患者骨髄より単核球を分離し、同細胞由来のcDNAを合成した後、レトロウィルスベクターpMX(北村俊夫博士より供与)に挿入しレトロウィルスcDNA発現ライブラリーを作成した。またこのライブラリープラスミドをBOSC23パッケージング細胞株へ導入し、1×10^6cfu/ml以上の高タイターウィルスストックを得た。レトロウィルス中のcDNAはcDNA本来のプロモーターではなくレトロウィルス内のLTRによって発現が誘導されるため、本ウィルスライブラリーを血液細胞に感染させることで、標的細胞中にCML急性転化患者骨髄由来のcDNAを高効率でかつ大量に発現誘導できると期待された。Interleukin-3(IL-3)依存性血液細胞株BA/F3に本ウィルスを感染させIL-3非依存性増殖能を付与する遺伝子の同定を目指した。 その結果既に10種類以上の形質転換細胞を同定した。現在pMXベクター内の配列をプライマーに用いたPCR反応を行うことにより、レトロウィルスによって導入されたcDNAを回収し各遺伝子の全長cDNAの単離、およびその発癌能の検定を試みている。
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