(1)カニクイザル自家骨髄移植の系の樹立:カニクイザルから骨髄血を採取し、CD34+細胞を単離し、全身放射線照射(500 cGy x 2)を行ったサルに自家移植した(11頭)。この際、無菌室管理、中心静脈栄養、輸血、抗生剤投与を必要としたが、おおむね安全に行なうことができた。 (2)カニクイザル造血幹細胞の遺伝子標識研究:移植した造血幹細胞の増殖・分化を体内において追跡するためには、移植細胞をあらかじめgreen fluorescent protein(GFP)等のマーカー遺伝子で標識しておくことが必要になる。そこで我々は、GFPを発現するレトロウイルスベクターを用いてカニクイザル骨髄CD34^+細胞へ遺伝子導入を行った。そして遺伝子導入したCD34^+細胞を自家移植することにより、体内における造血幹細胞の増殖・分化を追跡できるかどうか調べた。その結果、未熟な造血細胞(コロニー形成細胞)では、5-40%の細胞にGFP遺伝子導入が可能であることがわかった。一方、分化した血液細胞には、GFP遺伝子導入細胞はほとんど出現しないことがわかった。このことからGFPはカニクイザルの造血幹細胞において分化障害を引き起こす可能性が示唆された。現在、このGFPの毒性を回避する方法を検討している。 (3)Inverse PCR法によるレトロウイルスベクター挿入部位の解析:カニクイザルのような霊長類で、移植後の造血幹細胞の動態をクローナルに解析した例はほとんどない。この解析は、Inverse PCR法によってレトロウイルスベクター挿入部位に続くゲノム側の領域をクローニングすることによって可能である。ただしこの方法を移植後のカニクイザルの造血動態の解析に応用するためには、十分に高い遺伝子導入効率が求められる。我々のカニクイザルを用いた検討では、移植後の未熟な造血細胞(コロニー形成細胞;CFU)では5-40%の細胞に遺伝子導入が可能であり、こうした解析が可能である。現在、移植後のカニクイザル造血前駆細胞(CFU)におけるレトロウイルスベクター挿入部位の解析をInverse PCR法によって進めている。
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