研究概要 |
ヒ素化合物は中国において急性前骨髄球性白血病の治療に用いられ,アポトーシス誘導を介して寛解誘導をもたらすことが知られ注目されている。しかしながら,その作用機構の解明やマウスを用いたin vivoレベルでの基礎的研究は遅れている。そこで,今年度はわれわれの樹立したレチノイン酸耐性急性前骨髄球性白血病細胞株UF-1および感受性細胞株NB4へのヒ素化合物の効果をin vitroおよびin vivoにて検討した。ヒ素化合物はNB4,UF-1細胞ともに,それらの増殖を細胞周期G1期に停止させることで抑制し,その後アポトーシスを誘導した。興味深いことに,ヒ素化合物はNB4細胞ではBcl-2の発現を低下させるのに対し,UF-1ではBaxの発現を増加させることでアポトーシスを誘導した。また,ヒ素化合物は急性前骨髄球性白血病に特異的なPML/RARαキメラ蛋白を分解しすることで,細胞増殖を抑制しアポトーシスを誘導するものと考えられた。次いでヒトGM-CSF産生トランスジェニックSCIDマウスを樹立し,UF-1細胞を移植した急性前骨髄球性白血病モデルマウスを作製し,ヒ素化合物のin vivoでの効果を検討した。ヒ素化合物はin vitroにおいては急性前骨髄球性白血病のアポトーシス誘導のみであったが,in vivoにおいてはアポトーシス誘導の他に,マウスによっては細胞分化が誘導されたものも存在した。次年度はin vivoにおけるこのアポトーシスあるいは分化誘導機構の相違について分子レベルで解析する予定である。ヒ素化合物が投与されたマウスはいずれも有害な障害を認めず,また剖検によっても明らかな臓器障害は認められなかった。これらの結果は,ヒ素化合物が急性前骨髄球性白血病患者に安全に投与できることを示唆しており,臨床応用に向けた研究を併せて進める予定である。
|