研究概要 |
我々の研究はPAF receptor のtransgenic mouse と knock out mouseを用い、抗糸球体基底膜抗体腎炎モデルで、実際のPAFの役割を検討しようというものである。現在、knock out mouseは順調に生育、増加している。しかし、transgenic mouse はPAFの作用が増強されるためか生育、増加が困難な状況であり、直ちに実験に取りかかるにはまだ時間がかかると判断されたため、他のエイコサノイドであるLTB4に着目し、研究を始めた。LTB4は好中球、マクロファージの強力な走化因子であり、炎症の成立、拡大に重要な作用を有していると思われる。従って、細胞浸潤を伴う腎障害では重要な働きをしていることが予想される。そこで、腎臓の細胞浸潤に引き続き繊維化などが病理的特徴とされる虚血再灌流による急性腎不全のラットのモデルでLTB4が果たす役割を検討した。ヒトLTB4受容体を強制発現させ、マーカーを付けたCHO cell を虚血再灌流ラット大動脈より注入し検討したところ、腎の皮随境界の尿細管にLTB4受容体発現 CHO cell が多数走化してきており、対象細胞は全く走化していないことを見いだした。このことは皮随境界の尿細管でLTB4が多量に産生されていることを示している。ついで、このLTB4の役割を検討するため、LTB4受容体桔抗剤を前投与し、同様の実験を行ったところ受容体発現CHO cell の走化および腎機能の悪化は認められず、組織学的にも改善が認められた。これらのことより、虚血再灌流モデルではLTB4の作用を阻害することによって腎機能、組織学的悪化を阻止できることが明らかになった(Noiri E et al.PNAS97,823-828.2000)。さらに、ラットのLTB4受容体のクローニングを行った(Toda et al.Biochem Biophys Res Commun 262,806-812.1999)。また、高血圧の病態でのLTB4産生酵素である、LTA4 hydrolaseの発現をラット心臓で検討し、高血圧状態でLTA4hydrolaseの発現が増強することを明らかにした(Ishizaka N et al.FEBS Lett.463,155-159.1999)。
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