腎不全の原因として多い糸球体腎炎の発症および進展には、補体の過剰な活性化が重要な役割を果たす。一方、生体はこのような補体の過剰な活性化に対する防御機構として補体調節蛋白を備えている。 我々は、補体調節蛋白の尿細管間質における機能的意義を調べるため、in vivo antisense法を用い、尿細管における膜型補体調節蛋白の発現を抑制し、蛋白尿に含まれる補体成分の尿細管間質障害の進行に果たす役割と、これに対する生体防御機構としての尿細管における膜型補体調節蛋白の働きを明らかにした。 また、メサンギウム増殖性糸球体腎炎モデルとして有名なThy1腎炎を用いて糸球体腎炎における可溶性補体調節蛋白の発現調節を調べ、補体依存性の糸球体障害において局所における可溶型補体調節蛋白の発現が増加していることを示した。 更に、このような研究を発展させ、補体調節蛋白を用いた治療応用の可能性を探った。in vivoでは、糸球体細胞への遺伝子導入は技術的に難しいため、可溶型の補体調節蛋白をin vivoで過剰発現させることによる腎炎治療を目指した。可溶型の補体調節蛋白としては、Crryをmutagenesisにより遺伝子工学的に膜貫通部位を除去することにより作成した。可溶型Crryにはmutagenesisでtagを付け、血中濃度測定を容易にした。これと平行して、筋肉、肝臓を含めたどの臓器へ遺伝子導入するのが効率がよいのか、またplasmidのdirect injection、adenovirus、cationic liposomeなどのどのような導入方法を用いるのがよいのかを調べ、adenovirusを静注して肝臓において可溶型補体調節蛋白を発現させることとした。現在、可溶型Crry発現adenovirusベクターの有効性をin vitroでの確認を終了し、今後腎炎モデルを使用してin vivoでの効果を調べる予定である。
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