リンは解糖、糖新生、エネルギー代謝および骨代謝に必須の栄養素である。生体のリン代謝恒常性は、腎尿細管のII型ナトリウム依存性リン輸送担体(NPT2)によるリン輸送活性により調節されている。NPT2発現は転写レベル、NPT2の細胞内トランスロケーションおよび翻訳後レベルの調節を受けている。本研究において急速なリン調節機構として副甲状腺ホルモン(PTH)およびNPT2関連低分子蛋白(NPT2α、NPT2β、NPT2γ)分子によるNPT2の細胞内トランスロケーションの分子機構について検討した。PTHはPTH受容体を介してプロテインキナーゼAおよびCを活性化し、100kDaおよび77kDa蛋白をリン酸化してNPT2をエンドサイトーシスさせた。このような調節経路はカルシトニンにおいても機能しており、エンドサイトーシスされたNPT2はライソゾームで分解されることが明らかになった。また、NPT2α、NPT2β、NPT2γ分子をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させてNPT2リン輸送活性を検討した。NPT2α、NPT2βおよびNPT2γ自体はリン輸送能を示さなかったが、NPT2とNPT2γを共発現させると、NPT2による本来のリン輸送活性を約80%抑制した。さらに、卵母細胞膜におけるNPT2の発現量をウエスタンブロット及び免疫組織染色により検討したところ、NPT2γはNPT2のエンドサイトーシスを誘導し、卵母細胞膜上に発現しているNPT2タンパクを減少させた。卵母細胞膜上にNPT2γを検出できることから、NPT2γは細胞膜上でNPT2に作用してエンドサイトーシスさせることでリン輸送活性を調節する新しい分子であることが明らかになった。 以上、本研究においてNPT2トランスロケーションにおよぼすPTH作用のリン酸化蛋白の同定およびNPT2γのドミナントネガティブ分子としてのNPT2γの作用が明らかになり、異なる2つの作用機構が解明できた。
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