(1)腹膜透析患者腹膜におけるHSP47の発現 持続携帯式腹膜透析(CAPD)導入時に得られた腹膜組織とCAPD中止時に得られた腹膜組織群を対象とした。HSP47及びコラーゲンIIIは、コラーゲンの増殖による中皮下層の肥厚を認めるCAPD中止群、特に線維化が著明な除水能低下群で、肥厚した中皮下層に強く発現が認められた。マクロファージの浸潤、およびα-smooth muscle actin(SMA)の発現も同様であった。HSP47の発現は、コラーゲンIII、SMA、マクロファージの発現と正の相関を示し、難治性腹膜炎の患者腹膜において強く発現していた。CAPD患者におけるHSP47発現誘導の因子は不明であるが、頻回の腹膜炎による慢性炎症、CAPD透析液の高血糖、酸性の性質等HSP47発現との関連について今後検討を要すると思われる。 (2)ラットの腹膜硬化モデルにおけるHSP47の発現 クロールヘキシジン(CG)の腹腔内投与により、ラット腹膜は経時的に腹膜硬化を呈した。コラーゲン発現の増加に伴い、HSP47の発現も増強した。また、ヒトの腹膜硬化症と同様に、マクロファージの浸潤やSMA陽性のmyofibroblastの増加を伴っていた。本モデルは化学的刺激による腹膜硬化であるが、ヒトの腹膜硬化像と類似しており、腹膜硬化のモデルとして有用であると考えられた。以上より、HSP47が腹膜硬化という観点から見た生体適合性のマーカーと成りうる可能性が示唆された。 (3)ラット腹膜硬化モデルにおけるHSP47アンチセンスによる腹膜肥厚抑制効果 ラット腹膜硬化モデルを用い、HSP47アンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)を同時に投与することで腹膜肥厚が抑制される結果を得た。免疫組織染色による詳細な検討では、クロールヘキシジン単独投与群と比し、HSP47AS投与群でHSP47、コラーゲンIIIの発現は減弱した。また、浸潤マクロファージ数もAS投与群で減少した。以上の結果より腹膜硬化症に対し、HSP47のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、HSP47発現抑制を介した新たな治療法となる可能性が示唆された。
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