研究概要 |
目的:プロスタノイドは種々の生物活性を有し、それぞれの分子種固有の受容体を介してトロンボキサン(TX)A2は血管平滑筋の緊張を、プロスタサイクリン(PGI2)は血管平滑筋の弛緩作用を持ち、血圧、臓器血流量の調節に関与することが知られている。従来プロスタノイドの生体における機能は、アゴニスト、アンタゴニストを用いた実験によることが多く、分子構造が近似するプロスタノイドの作用を厳密に評価することが困難であった。本研究は腎の受容体ノックアウトマウスを用いてプロスタノイドの血圧調節ならびに、腎血流の変化に対する臓器保護における生理学的意義を解明することを目的とした。 方法:マウスTX受容体遺伝子(TP)およびPGI2受容体遺伝子(IP)ノックアウトマウス(KO)をそれぞれ作成し、食塩負荷による血圧の変動を測定した。さらに虚血性急性腎不全モデルを作成し、腎機能と腎組織の変化をコントロールとして用いたワイルドタイプマウス(WT)と比較検討した。 結果:TPKOはWTと比較して正常食塩食、食塩負荷食ともに有意な血圧の変化を認めなかった。一方、IPKOではWTに比較し正常食塩食では平均血圧の低下を認め、食塩負荷によってWTとほぼ同等に血圧上昇を認めた。虚血再還流モデルにおいてはIP, TPKOともにWTと較べて、急性賢不全発症後の腎機能、腎組織に有意な変化を認めなかった。 考案:TP, IPは急性腎不全の病態に関与する可能性が少ないことが示された。またIPは食塩感受性の血圧変化に何らかの関与をしている可能性が示され、同病態の理解と臨床的な応用に対する可能性が考えられた。
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