これまで、mycotoxinの一種であるnivalenol(NIV)を用いたIgA腎症モデルを確立し、粘膜組織での免疫異常がIgA腎症の発病に関与することを検討してきたが、本研究ではNIVをマウス腸管内に直接注入し腸管壁にどのような病理組織学的変化を惹起するか検討した. (1)クロロホルム麻酔下にマウスを開腹し腸管に薬物を注入する手技の確立を試み、経胃的に十二指腸内に溶媒を注入し24時間後までマウスを生存させることに成功した.(2)上記手技によりNIV1mg(50mg/kg wt)もしくは0.2mg(10mg/kg wt)を溶媒に溶かしマウスの十二指腸に注入した.24時間後、屠殺して得た小腸近位部、中位部、遠位部の病理組織学標本を丹念に観察したところ、NIVが注入されたマウスでは近位部に絨毛の壊死性変化および融合が認められたほか、本来、腸壁内に存在しPAS染色で陽性に染まるgoblet cell(GC)が注入部から離れた遠位部においても減少していることが確認された.腸の垂直断面像を解析し単位面積当りのGCを数えたところNIV投与群ではコントロール群に比し有意な減少を認めた.(3)光顕レベルでのGCの同定は細胞内に含まれるムチンがPAS陽性に染まることが見極める材料になっており、NIV注入によりGCが消失したのか、粘液顆粒(ムチン)が放出されただけかは検討課題となっていた.そこで、NIVを腸管内注入したマウス腸壁を電顕で観察したところ、GCが消失していたほか、絨毛基部での腸上皮細胞や陰窩にあるPaneth cellの壊死・変性が認められた. 以上より、NIVは微量でも小腸絨毛を構成する主な細胞群の生理的増殖を阻害し、結果的にGCからのムチン放出を減少させたりして粘膜バリヤーの働きを障害する可能性が示唆された.
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