IgA腎症はIgA1が腎糸球体内に優位に沈着することを特徴とする疾患だが、我々は従来、このヒトIgA1分子が血清蛋白として例外的にそのヒンジ部にO結合型糖鎖を持つ事に注目し、IgA腎症の成因にこのO結合型糖鎖が関与している可能性を想定して検討を加えてきた。 本年度は278例のIgA腎症患者から得られた290サンプルの腎生検標本から沈着IgAを分離し、そのヒンジ部を分離後、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)でその分子量を正確に測定することにより糖鎖構造を決定し、その糖鎖構造のばらつき(微小不均一性)の分布を観察した。その結果主なヒンジ部糖ペプチドのO結合型糖鎖はシアル酸が欠損しており、また、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミンの含有量の低下している事を観察した。こられの結果から本症沈着IgA1は我々が以前、本症患者血清IgA1で確認していたと同様、いわゆる糖鎖不全の状態を呈している事を世界にさきがけて明らかにした。また糖鎖不全IgA1を結合させたカラムを用いたアフィニテイークロカトグラフィーで、IgA、IgG3、C3とも粘着性があることが確認された。これらは本症での糸球体内にIgAと伴に高率に併存すること事を考慮すると興味深い。以上から本症でのIgA糸球体沈着機序、発症にIgA1ヒンジ部O結合型糖鎖の糖鎖不全が関与している事を強く示唆でき、本年度の検討目的はほぼ達成できたと考えている。
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