研究概要 |
本年度は当初、ウィルスベクターを用いて初代培養メサンギウム細胞にFcαRを遺伝子導入し、その機能を解析する予定であったが、FcαRを発現させる系を構築することができなかったため、IgA腎症とFcαRに関して他の研究を行った。 背景:メサンギウム細胞におけるFcαRの発現が明らかにされて以来、FcαRのIgA腎症への関与が様々な角度から検討されている。我々も、ヒト培養メサンギウム細胞においてFcαRの発現を確認しているが、その発現量は極めて微量であった。一方で、IgA腎症患者末梢血単球あるいは好中球のFcαRの発現が正常者と比べて、異なったパターンを示すことも報告されており、IgA腎症患者におけるFcαRの発現調節が注目されている。今年度我々は、FcαR遺伝子のプロモーター領域に2箇所(転写開始点から-114bp,+56bp)の遺伝子多型(C/C,C/T,T/T)を新たに同定し、IgA腎症患者におけるその頻度について解析した。 結果:IgA腎症患者群における+56bpのgenotypeの頻度はC/Cが正常対象者群および他の原発性糸球体腎炎群と比較して有意に高く、またallele頻度ではCalleleが有意に高かった。一方、-114bpにおいては統計学的に有意な差は認められないものの、IgA腎症患者でC/CgenotypeまたはCalleleの頻度が高い傾向にあった。 考察:FcαR遺伝子のプロモーター領域に、IgA腎症患者において高頻度に検出される遺伝子多型を同定した。この部位はFcαR遺伝子の発現に影響を及ぼす可能性のある領域であり、これら遺伝子多型の存在はIgA腎症患者におけるFcαR発現の特殊性を強く示唆するものである。今後は、この遺伝子多型がIgA腎症の発症あるいは進展に、どのように関与しているのかについて検討を進めたい。
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