糸球体濾過の際に糸球体基底膜は、チャ-ジバリア(陰性荷電物質の濾過を妨げること)としても機能するチャ-ジバリアの本体は強い陰性荷電物質との考えより、パラン硫酸プロテオグリカンがチャ-ジバリアの分子的実体てあると提唱された。この「陰性荷電説」は概念としては広く支持されているが、蛋白尿とチャ-ジバリアの破綻の関係に於ける、決定的な分子レベルでの証拠が未だに得られていない。 ヘパラン硫酸プロテオグリカンのひとつである「パールカン」は 基底膜を構成する代表的分子であり、糸球体基底膜にも発現している。パールカンの蛋白部分は5つのドメインからなり、第一ドメインに存在する第3エクソンは、ヘパラン硫酸鎖を付着させる部分をencodeしている。我々は陰性荷電説の是非を新たな角度から検討し直す目的で、遺伝子ターゲティング法に依り、リーディングフレーム変化を伴わずに第3エクソンのみを除去した変異パールカン分子を持つホモ変異マウスの作製に成功した。本マウス線維芽細胞由来のパールカン分子は第3エクソンの遺伝子産物以外のコア蛋白はintactであり、ヘパラン硫酸鎖を持たないことをpost-translationalレベルで生物化学的に証明した。ホモ変異マウスに顕著なタンパク尿は自然な状態では出現しなかった。糸球体基底膜の陰性荷電状況をPEI染色法により電子顕微鏡的に解析した結果、意外なことに、ホモ変異マウスと対照マウスとの間に変わりはなかった。このことは遺伝子ターゲティング法により生じた欠損機能を代償する分子が、糸球体に過剰発現している可能性を強く示唆した。現在、ヘパラン硫酸プロテオグリカンのひとつであり、かつ、糸球体での発現が証明されている、「アグリン」をこのような代償分子の第一候補とし、ホモ変異マウスの糸球体における発現を解析中である。一方、腹腔内にウシアルブミンを連日負荷する実験系では、負荷後2週に時点にて、ホモ変異マウスは対照群に比し有意なタンパク尿増加を示した。
|