血液透析中の慢性腎不全患者は動脈硬化性疾患のリスクが高いといわれるが高脂血症がその原因の一つと言われている。高脂血症の病態解明を目的として、安定同位体でラベルしたアミノ酸を使った新しいトレーサー実験を血液透析中の慢性腎不全患者5名(HD群)と健常対象者4名(対象群)に実施した。GC-MSを使ってVLDL、IDL、LDLアポ蛋白B-100とアポ蛋白A-I、A-IIのtracer/tracee ratiosを測定しさらにmulticompartmental model(SAAMII)にあてはめ代謝パラメーター(異化、産生速度)を算出した。 アポ蛋白Bの異化は遅延しており特にIDLにおいては対象群の70%と著明な遅延を認めた。VLDL、IDLでは産生速度も同様に低下していたため異化の遅延を産生低下が相殺してリポ蛋白濃度は正常に保たれていた。IDLは産生の低下を異化遅延が上回り血中濃度の増加を認めた。HD患者では、IDLのdirect uptakeは認めず、LDLへのconversionにも障害を認めた。腎不全患者では肝性リパーゼの活性低下とアポ蛋白C-IIIの増加が報告されているがアポ蛋白C-IIIがアポ蛋白Eを介したIDLのuptakeを阻害するとともに肝性リパーゼ活性阻害に働いているものと考えれられる。またLDLの異化障害の原因LDL受容体活性の低下が考えられるが、LDL粒子の受容体に対する親和性の低下の可能性も否定できない。HDLについては、アポ蛋白A-IIの産生低下が認められたものの、有意な異化亢進は認めなかった。VLDL産生低下の原因は不明だが、腎不全患者では肝臓でリポ蛋白合成と分泌にかかる時間が延長(1.1h vs 0.5h)していた点、またアポ蛋白A-IIの産生低下していたことから肝臓での蛋白合成分泌系自体に何らかの障害が生じているものと推察された。
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