【目的】マクロファージ(M)の遊走抑制因子で、かつ組織局所ではMの活性化因子でもあるM遊走阻止因子(MIF)を、MIF組換えアデノウイルスを用いて腎炎の病初期から血中に強制発現させると、腎炎の進展が抑制されることが11年度の研究で判明した。これはMIFによるMの遊走制御機構の存在を推測させるものであった。一方生理的にはMIFは脳や腎臓で多量に発現し細胞内に多量貯蔵されており、虚血などの環境の変化に応じて即座に反応し放出されるものと推測される。12年度の研究では、このような酸化ストレスに対する腎の反応様式を、MIFの発現経過から検討した。 【結果】1)酸化ストレスを模した培養メサンギウム細胞のH2O2刺激では、刺激直後に細胞内に貯蔵されていたMIFが培養液中に放出されたが、炎症を模したTNF刺激では新たな転写、翻訳による蛋白合成が必要であり、3-4時間後に初めてMIFが上昇した。2)60分間の左腎虚血再灌流実験では、再灌流直後の血清MIFはすでに100ng/mlまで上昇しておりその後も徐々に上昇し60分後には140ng/mlまで達した。これは虚血腎由来の可能性が大きい。3)虚血再灌流腎では尿細管細胞のMIF染色性が著明に低下しており、虚血刺激による貯蔵MIFの放出を示唆している。また間質にもMIF濃縮細胞がみられた。4)臨床的には腎移植患者やIgA腎症では血清MIF値が活動性の変化に伴い推移していた。 【結論】腎虚血による酸化ストレスでは尿細管細胞貯蔵MIFが間質に漏出し、間質への細胞浸潤を惹起する可能性が推測された。MIF測定は腎間質障害の活動性の予測を可能とし、治療法の選択および治療期間や効果判定にも役立つものと期待される。
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