研究概要 |
糸球体腎炎における転写因子NF-kB活性化の意義の解明とNF-kB活性化制御による糸球体腎炎治療法の構築を目的として以下の研究を行った。 第一にヒト腎生検組織を用いて、活性化NF-kBに対する抗体を用いた免疫染色により、ヒト糸球体腎炎におけるNF-kB活性化の状態を検討した。IgA腎症等の増殖性腎炎症例において糸球体における活性化NF-kBの存在を認めた。次に糸球体腎炎モデル(Thy1腎炎モデル)を使用して、EMSA法により、腎炎糸球体におけるNF-kB活性化動態を検討した。正常腎糸球体においてはNF-kB活性化はごく軽度であったが、腎炎糸球体においては、増殖病変の極期であるday7をピークとしてNF-kB活性化を認めた。 NF-kB活性化を抑制する方法として、glucocorticoid(GC)及び抗酸化薬PDTCを利用し、NF-kB活性化制御による糸球体腎炎治療法の可能性を検討した。GCはIkBaの産生亢進等を介してNF-kB活性化を抑制しうることが報告されている。また活性酸素種がNF-kB活性化の細胞内シグナル伝達系のひとつであり、PDTCがNF-kB活性化を抑制しうることも報告されている。両薬剤をThy1腎炎day3より投与した所、蛋白尿/血尿の尿所見の有意な改善効果を認めた、腎組織においても糸球体内の増殖病変・炎症細胞浸潤が有意に改善されていた。NF-kBにより遺伝子発現が制御されているTNF-a、MCP-1等の遺伝子発現が抑制されていた。分離糸球体からの核抽出物を用いたEMSA法による解析では、両薬剤による糸球体内NF-kB活性化の抑制効果を認めた。 転写因子NF-kBは炎症性cytokine, chemokine,接着因子等の炎症の病態形成に必須の遺伝子発現を制御することにより、糸球体腎炎においても病態形成に中心的な役割を果たしていることが判明した。転写因子NF-kBの活性制御による腎炎治療戦略の有効性が示された。
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