研究概要 |
形質転換増殖因子β(TGF-β)は、糸球体硬化や間質線維化の進展に重要な役割を果たす.TGF-βのレセプターや細胞内情報伝達分子Smadなどの構造やシグナル伝達のしくみが、最近、明らかにされた.In vitroやin vivoにおける遺伝子導入法が徐々に確立されてきており、今回我々は、Smadをアデノウイルスベクターによる遺伝子導入を用いて、TGF-βのシグナル伝達と糸球体疾患の関連を検討した. Smadには、レセプター特異型(Smad2/3)、共有型(Smad4)及び抑制型(Smad7)がある.アデノウイルスベクターによりSmad2/3.Smad4,Smad7を培養メザンギウム細胞に、遺伝子導入を行い、TGF-βの標的遺伝子の産物であるPAI-1の発現やマトリックス蛋白の発現を検討した. 培養メザンギウム細胞では、TGF-βの刺激により、特異型Smadが濃度依存性かつ時間依存性にリン酸化される.アデノウイルスベクターによる、Smad2またはSmad3単独の遺伝子導入では、PAI-1の発現やマトリックス蛋白の発現は増強されず、Smad4を同時導入した時に増強した.また、Smad7の遺伝子導入により、特異型Smadのリン酸化は抑制され、PAI-1の発現は減弱した. 一方、腎炎モデルにおけるSmadの関与の検討も行った.TGF-βがメサンジウム基質の拡大に関与する抗Thy-1抗体腎炎において、メザンギウム基質の拡大の時期に一致して、Snad2がリン酸化されることを明らかにした.このことは、Smad2がこのモデルにおいて、TGF-βのシグナルを伝えていることを示唆する. 以上のように、Smadは、TGF-βの情報伝達において、協調的あるいは抑制的に作用していると考えられる.今後、各Smad蛋白の発現操作により、腎疾患の進展の制御方法の開発が可能になることが示唆された.
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