胎生期の一時的ストレスが終生残存する器質的脳障害となるメカニズムを明らかにする目的で、胎生期にX線照射したラットの大脳皮質ニューロンを培養し、そのシナプス性自発活動を観察した。これまでに、大脳皮質IV層ニューロンが誕生する胎生17日目にX線照射をうけたラット、(E17照射ラット)の大脳皮質ニューロン数は健常ラットに比較して約1/4に減少していたが、ニューロンの播種密度が同じであればシナプス性自発活動は健常ラットと同様に観察されることがわかっている。今年度は、より深層の大脳皮質VI層ニューロンが誕生する胎生15日目にX線照射したラット(E15照射ラット)についてさらに詳しく検討した。E15照射ラットは健常ラットに比較して、体量が約半分であり、脳重量も約半分であった。また、大脳皮質ニューロン数は健常ラットに比較して約1/5に減少していた。しかし、アストロサイト上に同じ播種密度で培養すると、X線照射ラットニューロンにおいても健常ラットと同様にシナプス性自発活動を観察することができた。また、健常ラットニューロンにおけるシナプス性自発活動は培養が進むにつれて瀕回となるが、E15照射ラットニューロンにおいても同様の傾向を観察できた。このことはX線照射により、ニューロンの総数は減少するが、残存しえたニューロンは適切な環境さえ整えば機能的にシナプス形成が可能なことを示唆している。今後は、照射ラットニューロンの特徴を免疫化学的に解析し、生後、小頭症を示すX線照射ラットの病態を解明し、発達障害を予防する方法について検討していく予定である。
|