ラットの胎生15〜18日目は大脳皮質VI〜II/III層ニューロンが順に誕生する時期であり、この時期にX線照射をうけたラットは小頭症となり攻撃的・過敏性などの異常行動を示すことが知られている。本研究では、胎生期の一時的異常・ストレスが終生残存する神経回路異常をきたす機序を明らかにするために、このX線を照射した小頭症ラット胎仔の大脳皮質ニューロンのシナプス形成能について電気生理学的に検討した。 正常ラット胎仔大脳皮質ニューロンをアストロサイト単層培養上で培養すると、神経ネットワークによるシナプス性周期的脱分極活動が観察される。大脳皮質各層ニューロンが誕生する胎生各時期にX線照射をうけたラットニューロンにおいても、これらの周期的脱分極活動が観察され、各層ニューロンを欠如しても機能的な局所のシナプス形成が可能かどうかを検討した。その結果、X線照射ラットではニューロン総数が激減しているにもかかわらず、GABAニューロンの比率が増加していること、周期的脱分極活動は正常と同様に観察されるものの、そのamplitudeは低く、ニューロンの発火頻度も少ないことがわかった。 以上の結果は、胎生期に一時的ストレスをうけても、残存しえたニューロンは適切な環境下であればシナプス形成が可能であるが、その発達は正常とは異なり、抑制性シナプス優位であることを示している。この抑制性入力の優位性がその後の神経発達障害や異常行動などをひき起している可能性がある。またこの研究結果は、胎生期のストレス後早期に適切な治療を行えば、出生後に生じてくる神経後障害を予防あるいは軽減できる可能性があることを示唆している。
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