野生型マウス海馬、小脳のmRNAよりTRHノックアウトマウスmRNAを差し引いたサブトラクションcDNAライブラリーを作製し、PCR法を用いてTRHノックアウトマウスにて変化しているmRNA群を同定し塩基配列を決定した。100クローン以上解析した結果、数個の遺伝子がTRHによって制御されていることが判明した。同定された遺伝子は、細胞構造、シグナル伝達に関与する遺伝子、各種受容体遺伝子など多岐にわたっていた。この内、繰り返し同定された遺伝子の一つがCdk2 related kinaseのPftaire遺伝子であることが判明した。このPftaire遺伝子は、中枢神経、精巣に特異的に発現しており、神経突起の発育に重要とされるCdk5と強い相同性を持つ。Northern解析により、TRHノックアウトマウスの小脳Pftaire mRNAレベルは、野生型と比較して数倍低下していることが判明した。また、TRHノックアウトマウスの甲状腺機能低下症による影響を除くため、甲状腺ホルモンを連日補充し、同様の実験を行ったが、Pftaire mRNAレベルの低下は回復せず、Pftaire mRNAレベルはTRHにより直接制御されていることが明らかとなった。また、ヒト細胞株HTB-185にもPftaire mRNAは高発現しており、TRHの添加により時間依存性、容量依存性にPftaire mRNAの発現が増強した。また、その発現は、cGMPにより増強し、NOS阻害剤により、TRHによる増強は抑制された。一方MAPK阻害剤PD98058やCa拮抗薬Nimodipineでは、TRHによるPftaire mRNAの増強に影響を与えなかった。以上より、TRHによるPftaire mRNAの増強は、NO-cGMP系を介するものであることが判明した。
|