骨代謝にかかわる細胞の分化および機能の局所的調節機構と老人性骨粗鬆症などの病的状態おけるその異常の解明を目的として、骨局所における骨芽細胞と細胞外基質間の相互作用、骨髄細胞と癌細胞の相互作用、骨髄細胞と内皮細胞の相互作用の仕組みとその役割に焦点をあてて研究を進めた。特に、骨基質蛋白の受容体であるインテグリンを介して活性化される細胞内シグナルの骨芽細胞分化における重要性について、骨形成因子(BMP)シグナルとの関連に重点を置いて検討した。また、チロシンキナーゼ領域をもつ非インテグリン・コラーゲン受容体の役割についても合わせて検討した。さらに、骨転移などの特殊な病態における癌細胞や内皮細胞の破骨細胞形成に対する作用について細胞間相互作用という観点から研究を行った。 1.基質コラーゲンへの接着による骨芽細胞の分化形質の発現機序: 骨芽細胞の分化には、基質I型コラーゲンと細胞膜α2β1インテグリンとの結合によるFAK-ERK系の活性化およびBMP-Smadシグナルの活性化が重要であることを明らかにした。また、チロシンキナーゼ活性を持つコラーゲン受容体DDR2はFAKおよびPI3キナーゼと複合体を形成しそれらのリン酸化を促進することを明らかにし、その骨芽細胞における重要性が示唆された。 2.細胞・基質間相互作用と骨芽細胞分化誘導因子との関連: FAKシグナル欠損状態ではSmadの核移行は阻害されないものの、Smad依存性の標的遺伝子の転写が抑制されることが明らかとなった。また、FAKの下流シグナルとしてRas-MEK1-ERKが直接にSmad依存性の転写に関与することが示された。これらの成績は、基質コラーゲン由来のシグナルが骨芽細胞の分化と機能獲得に必須であることの機序の解明につながるものである。
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