Fasligand(FasL)は甲状腺濾胞細胞に発現し、正常甲状腺組織の"immunoprevileged site"形成に重要な役割を果たしている。IL-1βはバセドウ病甲状腺組織に強く発現しているが、今回、IL-1βのバセドウ病発症への関与を甲状腺濾胞細胞とT細胞間のFas/FasL相互作用の点から検討した。 組織学的には正常甲状腺組織と比較すると、バセドウ病甲状腺組織濾胞細胞のFasL発現は減少し、一方、Fas発現は顕著に増大していた。培養甲状腺濾胞細胞のFasL発現はIL-1β添加により抑制されるとともにFas発現は増強された。In vitroで活性化されたT細胞はFasLを強く発現しIL-1βで刺激された培養甲状腺濾胞細胞にFas依存性アポトーシスを誘導した。 次にバセドウ病甲状腺組織に浸潤しているCD4^+T細胞を用いて検討した。バセドウ病甲状腺組織にはCD4^+T細胞の浸潤が認められる。浸潤しているCD4^+T細胞を単離し、FasL発現をウエスタンブロット法にて評価すると、同病末梢血CD4^+T細胞と比較しFasL発現の著明な増強が認められた。バセドウ病末梢血CD4^+T細胞のIL-1β刺激甲状腺濾胞細胞への細胞傷害性はきわめて軽微であったが、同病甲状腺組織浸潤CD4^+T細胞はIL-1β刺激甲状腺濾胞細胞にFas依存性アポトーシスを誘導した。バセドウ病甲状腺組織浸潤CD4^+T細胞はFas発現も増大していたがFas依存性アポトーシスには抵抗性を示し、この現象はこれら細胞に強く発現しているBcl-xLの抗アポトーシス作用によるものと思われた。 以前よりIL-1βは接着分子(副刺激分子)発現を増強させ、末梢血から組織への活性化T細胞浸潤を誘導することが報告されている。それに加えIL-1βは、活性化CD4^+T細胞の甲状腺濾胞細胞に対するFas依存性アポトーシス感受性を増大させ、これらの作用によりバセドウ病甲状腺組織の"immunoprevileged site"形成の破綻に関与することが示唆された。
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