研究概要 |
ヒト甲状腺癌の情報伝達機構の異常を明かにすることは診断や治療に不可欠である。手術時に得られた甲状腺腫瘍とその周辺の正常部について細胞増殖に関与する情報伝達機構に差があるか否かを検討した。平成12年度までに以下の事実が判明した。 (1)甲状腺乳頭癌、濾胞癌ともに腫瘍部では周囲の正常部に比較してMAPキナーゼカスケードを構成する成分(MAPキナーゼ、MEK,raf-1)の蛋白発現量が2-3倍に増加しており、かつ活性も数倍に増加していることが判明した。甲状腺細胞の増殖はMAPキナーゼ阻害剤によって抑制されることから、甲状腺癌の増殖には構成的なMAPキナーゼ(MAPK)の活性化が関与していることが示唆される。なお甲状腺濾胞腺腫ではMAPK蛋白量や活性は正常部と有意の差はなかった。MAPKの測定は濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別に有用である。なおMAPKに類似するp38MAPKの蛋白量、リン酸化ともに癌組織で増加していることが判明したがその意義はなお不明である。 (2)MAPKカスケードと同様に細胞増殖に関与するp70S6キナーゼ(S6K)やAkt(protein kinase B)についても検討した結果、やはり発現量活性化ともに癌組織では正常部に比して有意に増加していることが判明した。 今後は甲状腺細胞の増殖やアポトーシスにおけるMAPK,Akt,S6Kの役割、甲状腺腫瘍でのMAPKやS6K,Aktの上流の成分の異常の有無を検討する予定である。
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