ヒト網膜色素上皮細胞、ラット腎メサンギウム細胞およびヒト血管内皮細胞において高糖濃度、最終糖化産物、IL1、低酸素刺激で検討した転写活性の変化を検討した結果、高糖濃度、IL1、低酸素刺激ではVEGF遺伝子上流領域が転写活性上昇に重要であった。しかし最終糖化産物においては、遺伝子上流領域、あるいは下流領域におけるルシフェラーゼ活性を解析した結果、遺伝子下流に調節領域が存在した。VEGFmRNA3'領域に結合する蛋白を解析した結果、最終糖化産物はこれらの蛋白複合体の量は変えずにmRNAとの結合親和性を上昇させることが判明した。この現象は血管内皮細胞、腎メサンギウム細胞においても同様であった。VEGF遺伝子転写抑制物質は最終糖化産物で認められた3'領域での調節に関与してVEGF遺伝子の発現を抑制した。実験網膜症モデルとして網膜症の出現を確立しているガラクトース食負荷GKラットを用いて、VEGF遺伝子転写抑制物質投与による血管内皮細胞の増殖抑制効果、タンパク尿抑制効果を検討した。網膜血管内皮細胞の増殖、アポトーシスは有意に抑制された。尿中蛋白尿はさらに生理食塩水を負荷した場合、投与群において蛋白尿の抑制が認められた。 VEGF遺伝子の発現調節系において、従来解析されていた遺伝子上流領域に調節系に加え、下流領域の調節が存在し、最終糖化産物によるVEGF増加は下流領域による転写活性増加が関与することから、糖尿病合併症の病態において重要と考えられる。
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