研究概要 |
最近、我々は5-ホスファターゼ活性を有するリピッドホスファターゼとしてラットSHIP2をクローニングした。本研究ではSHIP2の骨格筋細胞でのインスリン作用への関与をL6筋肉細胞を用いて検討した。分化したL6細胞にアデノウイルスを用いて野生型(WT)-SHIP2、あるいは、5-ホスファターゼ活性が欠損した変異型△IP-SHIP2を過剰発現させた結果、インスリン受容体の自己リン酸化、インスリン受容体基質(IRS)のチロシンリン酸化、IRSとp85-PI3キナーゼサブユニットの結合、PI3キナーゼの活性化までのインスリンの早期シグナル伝達には影響を与えなかった。しかし、SHIP2は5-ホスファターゼ活性を有し、PI3-キナーゼ産物であるPI(3,4,5)P3をPI(3,4)P2に変換する作用を有することをin vivoでの測定で認め、PI3キナーゼの下流に位置するAktとGSK3 βのインスリンによるリン酸化と活性化は、WT-SHIP2の発現により低下し△IP-SHIP2の発現により上昇する結果を得た。これらのPI3キナーゼ下流分子の変化に一致して、インスリンによるグリコーゲン合成酵素活性とグリコーゲン合成は、WT-SHIP2の発現により低下し△IP-SHIP2の発現により上昇した。このことから、SHIP2はインスリンのグリコーゲン合成へのシグナル伝達を抑制的に制御する働きを有することが示された。また、PI3キナーゼの下流で働くAktはin vitroではPI(3,4,5)P3よりもPI(3,4)P2により活性化され易いことが報告されていたが、本研究により、In vivoではAktの活性化にはPI(3,4,5)P3がより重要である結果を得た。
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