研究概要 |
PI3キナーゼはインスリンの代謝作用発現の重要な役割を担う。リピッドホスファターゼSHIP2はPI3キナーゼ産物であるPtdIns(3,4,5)P3を特異的基質としてPtdIns(3,4)P2への代謝する5'-ホスファターゼ活性を有するため、SHIP2がインスリンの代謝作用へのシグナル伝達に及ぼす影響を検討した。野生型(WT)-SHIP2と5'-ホスファターゼ活性を欠損したΔIP-SHIP2をアデノウイルスを用いて分化した3T3-L1脂肪細胞とL6骨格筋細胞に発現させ、インスリンシグナルに及ぼす影響を検討したところ、いずれのSHIP2の発現もインスリン受容体の自己リン酸化からPI3キナーゼの活性化に至るまでのインスリンの早期シグナル伝達には影響を与えなかった。一方、WT-SHIP2で認められるin vivoでの5'-ホスファターゼ活性を反映して、インスリンの代謝作用の発現に重要なPI3キナーゼの標的分子であるAkt、PKCλ、PP1活性と、GSK3βのリン酸化のインスリンによる亢進作用はWT-SHIP2の発現により低下し、内因性のSHIP2の作用を抑制することによりドミナントネガティブに働くΔIP-SHIP2の発現により亢進した。さらに、インスリンによる糖取り込みとグリコーゲン合成の促進作用はWT-SHIP2の発現により低下し、ΔIP-SHIP2の発現により亢進したことから、SHIP2はインスリン作用の生理的な負の調節機構に重要な役割を担うことが示された。少なくとも細胞レベルでは、SHIP2はインスリン作用の負の調節因子として重要であることから、2型糖尿病患者よりインフォームドコンセントを得た上で、末梢血より抽出したgenomic DNAのSSCP解析を行いSHIP2のSNPの有無を調べることにより、2型糖尿病の病態にSHIP2が関与する可能性につき現在さらに検討を進めている。
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