本研究ではヒト大動脈cDNAライブラリーをgp91phoxの全長cDNAをプローブとしてスクリーニングし相同性のある遺伝子クローニングを試みた。約50万個のプラークをgp91phoxの全長cDNAでハイブリダイズした結果20個の陽性クローンを検出した。それらクローンのすべての塩基配列は白血球のgp91phoxと同一であり、ラット心筋、大動脈より抽出したmRNAを用いたNorthern blot解析でもgp91phoxのシグナルを検出しえた。以上より心血管組織において白血球と同一のNADPH oxidaseの発現が確認できた。次に我々がNADPH oxidaseの活性亢進状態を報告している、高インスリン血症動物でのgp91のmRNA発現をを検討したところ、心臓、大動脈においてその発現の増加を認めた。一方、高血糖状態ではミトコンドリアでの過酸化水素産生と過酸化脂質の蓄積が認められ、ミトコンドリアでの活性酸素産生の増加が示唆された。糖尿病ラット心筋単離ミトコンドリアを用いた実験では、転写因子mtTFAのDNA結合の低下を認め、ミトコンドリアでの転写活性が低下していた。mtTFAの2次元電気泳動解析の結果では、糖尿病ラットにおいて移動度に差を認め、酸化的修飾を受けている可能性が示唆された。また、ミトコンドリア遺伝子の転写活性の低下はミトコンドリア電子伝達系酵素群の一部の発現を低下させて、電子のリークを増加させることから、ミトコンドリアでの活性酸素産生亢進の原因としても重要と考えられた。
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