研究概要 |
インスリンによる糖輸送促進にはPI(3)K(phosphatidylinositol-3-kinase)活性化が必須である。下流のシグナルとしてはPI(3,4,5)P_3が最も重要と考えられているが、PI(3,4)P_2の役割も否定できない。そこで、これらPI(phosphatidylinositol)の糖輸送促進機構における役割を検証するため、PIP_3からPIP_2を生ぜしめるSHIP(SH2-containing inositol 5-phosphatase)を3T3-L1脂肪細胞に過剰発現させ、インスリン刺激による糖輸送を検討した。さらに、PI代謝は細胞膜上で行われていることが想定されるため、細胞膜移行シグナルを付加したミリストイル化SHIP(m-SHIP)も作製し、wild-type SHIP(w-SHIP)との違いも検討した。 3T3-L1脂肪細胞に、LacZ(コントロール)、w-SHIPやm-SHIPcDNAを組み込んだアデノウイルスを感染させ、3〜5日後に実験に供した。w-SHIP・m-SHIP過剰発現をウエスタンブロットで確認後、糖輸送活性は、10^<-9>〜10^<-7>Mインスリン存在・非存在下の2-deoxy glucose取り込み量で測定した。さらに、各細胞全体でのGLUT4発現量や、10^<-7>Mインスリン依存性のGLUT4 translocationを検討するため、total lysateやインスリン非処理・処理後の細胞膜分画を用いてウエスタンブロットを施行した。 コントロール細胞に比べ、w-SHIPあるいはm-SHIP過剰発現3T3-L1脂肪細胞では、10^<-7>Mインスリン存在下での糖取込みはそれぞれ平均1.7倍、2.7倍増加した。また、コントロール細胞に比べ、w-SHIPおよびm-SHIP過剰発現3T3-L1脂肪細胞では、細胞全体でのGLUT4発現量自体には特に差はなかったが、10^<-7>Mインスリン存在下での細胞膜分画でのGLUT4発現量は、SHIP特にm-SHIP発現細胞で増加する傾向にあった。 SHIP特にm-SHIPの過剰発現下では、細胞膜上のPIP_3が減少しPIP_2が増加することが推測される。以上の検討の結果、インスリンによる糖輸送促進機構、すなわちGLUT4 translocationには、PI(3)K下流のシグナルとしてPIP_2がより重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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