研究概要 |
我々はすでに,CD38(ADP-ribosyl cyclase)に対する抗体がインスリン分泌を抑制すること、CD38抗原のフラグメントに対する抗体にも同様の効果があることを報告した。また,NODマウスにおいてCD38抗体は糖尿病発病前から,膵島炎,膵島破壊とともに消長し,IDDMの発症後は減少するとことも明らかにした。今回はこの抗体がヒトの糖尿病に自己抗体として出現している可能性と,その意義について検討し、以下の結果を得た。 1)糖尿病患者184名中,43名が抗体陽性であった。2)抗体陽性血清はフラグメント287-297(N-CVKNPEDSSCT-C;Ag-1)、フラグメント241-255(N-CSNNPVSVFWKTVSR-C;Ag-2)いずれとも反応するものが多かったが,Ag-1の方が高頻度にCD38ペプチド抗体「陽性」を検出した。3)糖尿病治療別に見ると,食事療法9例中4例,経口剤24例中9例,インスリン療法125例中20例であり,陽性率はインスリン群で最も低かった。4)抗体陽性者は,糖尿病罹病年数が短く,空腹時血糖が高い傾向があった。5)しかしながら,膵島残存機能の指標である血中CPR値,尿中CPR排泄量は,抗体陽性群で高い傾向が認められた。6)CD38抗体とGAD抗体との一致率は低く,甲状腺マイクロゾーム抗体ととの一致率も低かった。7)抗体陽性者は,白血球数が少なかった。 以上、新たにを開発したCD38(自己)抗体の検出系を用いて検討したところ,IDDMのみならず,現在NIDDMである症例においても検出された。本抗体はGAD抗体とは別の意義があるものと思われた。CD38抗体はインスリン分泌を抑制する場合と,逆に刺激する場合もあることから,今回検出した抗体が,β細胞の破壊のマーカーとしての意義の他,インスリン分泌の調節因子として機能している可能性も考えられる。
|