研究概要 |
プロスタサイクリン産生刺激因子(PSF)と糖尿病大血管症 PSFは、ヒト線維芽細胞からクローニングされた生理活性因子で、培養血管内皮細胞からのプロスタサイクリン(PGI2)産生を刺激する。PSFは血管内皮細胞および血管平滑筋細胞(VSMC)に強く発現している。我々は既にヒト冠動脈硬化巣においてPSF発現が低下していることを報告したが、その機序を明らかにする目的で動脈硬化の発症・進展に関与するリポ蛋白のPSF発現に及ぼす影響について検討した。VSMCを健常者から調製したLDL、酸化LDLの構成成分として重要なlysophosphatidylcholine、phosphatidylcholineと反応させ、PSFmRNA発現をノザンブロット法にて検討した。健常LDLやphosphatidylcholineはPSF発現に影響を与えなかったが、lysophosphatidylcholineは,PSF発現を濃度依存性に抑制した。この抑制はProtein kinase C(PKC)阻害薬の前処置により回復した。以上の結果から、動脈硬化の発症・進展に酸化変性LDLによるPSF発現異常が関与する可能性が示唆された。 PSFと糖尿病網膜症 網膜周皮細胞(RPC)、内皮細胞(REC)にPSF発現を確認した。RECにおけるPSF発現は、高グルコース培養やPKC活性化で低下し、低酸素条件で増加した。RPC上清は、RECからのPGI2産生を刺激したが、この効果はPSFのアンチセンスにより消失した。実験糖尿病ラット網膜におけるPSF発現は糖尿病誘発2週目で低下、8週目では逆に増加した。一方、TGF-β発現も8週目に増加した。TGF-β刺激によりRECのPSF発現は増加した。糖尿病ラットの網膜血流量は初期には低下し後期には増加するが、その機序にPSF発現異常が関与する可能性が示唆された。
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