研究概要 |
大腸癌に広く発現する42-46KDaの糖ペプチドの一部分を認識するヒト型モノクローナル抗体SKlは、in vitroにおいて癌細胞の運動性を抑制することから、臨床的に有用な抗体である可能性を報告してきた。今年度はこれを用いて以下の事項を行った。(1)精製したSKlを用いて1998年度からひきつづいて第一相臨床試験を継続して行なった。対象は、放射線、化学療法など、他の治療法にて効果を認めなかった再発大腸癌患者で、十分なインフォームドコンセントを得た後、様々な濃度のSKlを3回から7回に分けて静脈内投与した。一例に投与後37度台の熱発を一度だけ認めたが、特に処置なく解熱した。その他の副作用はなく、血液データからも肝障害、腎障害を示唆する所見はなかった。臨床効果は抗体量30mgまででは明らかな抗腫瘍効果は認められず、残存腫瘍の縮小には至らなかった。しかし血中CEAの4週目、8周目の上昇率は投与前に比べて有意に抑制された。50%生存期間は15ヶ月であった。また、事前に作成しておいたSKlのマウス抗イディオタイプ抗体(Ab2)とウサギ抗体イディオタイプ抗体(Ab3)を用いた競合試験により、患者血中のSKlに対するIgG型の血中抗イディオタイプ抗体価は9名中4名で投与後から上昇していくことが認められ、このことは抗腫瘍抗体投与によるイディオタイプネットワークの存在を示唆するものと考えている(投稿中)(2)抗体の認識抗原に含まれる54のアミノ酸配列を解明した(Tissue Antigens,in press)。抗体はこのアミノ酸のうち、20merの部分を強く認識した。今後、このペプチドを用いることで、大腸癌にたいする液性ないし細胞性免疫が惹起されるか否かを検討してゆく予定である。
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