研究概要 |
【目的】消化器外科領域における緑膿菌のカルバペネムに対する耐性化の状況を検討し,院内感染への関与について薬剤感受性型や血清型に加えて分子生物学的手法による検討を行った.【対象と方法】1)1983年から1998年までの16年間に広島大学第一外科で分離された緑膿菌552株についてimipenem(IPM)に対する耐性率の変化を検討し,血清型別分類を行った.2)'90年以降の分離株についてパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)によりゲノムパターンを解析した.【結果】'90年から'94年の1PM耐性率は33.3〜47.0%と高率であった.これは血清型別分類から特定の菌株群('90,'91年のF群,'94年のB群)のoutbreakが原因と考えられ,PFGE解析にて大規模な院内感染が確認された.これに対して'95年以降はIPM耐性率は15.0%にとどまり,特定の血清型群の流行を認めず血清型による院内感染の推定は困難であったが,PFGEによる解析ではpatient to patientでとどまるような小規模な院内感染の証明が可能であった.【考察】'90年代前半では特定の院内感染株の流行によりIPM耐性株の分離率は高率であったが,'95年以降は抗菌薬の適正使用に努めることによりIPM耐性化は鎮静化した.特定の血清型の耐性株の流行が認められた場合に院内感染を疑うことは比較的容易であるが,近年では血清型・薬剤感受性型などの表現型マーカーのみでは院内感染の監視において充分な情報が得られ難くなっていた.これに対して遺伝子型分類を表現型マーカーと組み合わせることにより小規模な院内感染が比較的早期に指摘され対策が可能となることが推察された.次年度においてはカルバペネム分解酵素metallo-β-lactamaseの遺伝子陽性株を検索し,院内感染との関わりを検討したい.
|