研究概要 |
手術手技、治療用カテーテル、人工血管材料そして薬剤の進歩により、PTCAや閉塞血管に対するバイパス術の早期治療成績は著しく向上したが、血管壁内膜肥厚に起因する術後の再狭窄は、遠隔成績向上の障害となっている。下肢慢性動脈閉塞性疾患におけるバイパスグラフトとして自家静脈グラフトは第一選択であるが、約20-30%が晩期閉塞に至る。即ち、この血管内膜肥厚の原因を明らかにしその治療法を確立することは、臨床的に大変重要である。ウサギ頚動脈バルーン傷害モデルを用い、Activator Protein 1(AP-1)デコイ導入による内膜肥厚に対する影響を検討した。【目的】DNA結合性転写因子であるAP-1は、細胞増殖因子などの刺激後、極めて初期に発現され、様々な細胞増殖に関わる遺伝子を誘導することにより、細胞増殖を引き起こすといわれている。今回.我々は、AP-1結合部位と同じ塩基配列をもつおとり型オリゴヌクレオチドであるAP-1デコイを家兎頚動脈バルーン障害モデルに導入し、内膜肥厚抑制効果を検討した。【方法】日本白色種家兎頚動脈を露出、外頚動脈より2Fr.バルーンカテーテルを挿入し内腔を擦過し、内皮細胞剥離後、HVJ-AVE(Hemagglutinating Virus of Japan-Artifical Viral Envelope)法を用い、血管内腔にオリゴヌクレオチドを含んだHVL-AVE複合体を、150mmHgの圧で20分間導入した。1)AP-1デコイ(n=7),2)スクランブルデコイ(n=6),3)HVJ-AVEのみ(n=4),4)Balanced Salt Saline(BSS)(n=6)の4群で検討した。導入後4週間後に動脈を採取し、光学顕微鏡にて肥厚内膜面積、及び内膜、中膜比を測定した。次に正常動脈及び、バルーン障害後4日目の動脈を採取し核蛋白を抽出、ゲルシフトアッセイを行った。【結果】1)導入後6時間後の動脈にて、FITCラベルの合成オリゴヌクレチオドの中膜平滑筋細胞への導入を確認した。2)AP-1デコイ導入群では肥厚内膜面積、内膜、中膜比ともに他の3群に比較し、有意(p<0.01)に抑制された。3)ゲルシフトアッセイにて正常動脈及び、バルーン障害後4日目の動脈とともに同部位に1本のバンドを認め、AP-1の発現を確認した。【考察】HVJ-AVE法を用いたAP-1デコイ導入により、バルーン障害による内膜肥厚を制御した。この事により、動脈閉塞性疾患に対する経皮的血管形成術やバイパス術後の内膜肥厚による再狭窄を予防するための遺伝子治療として、今後期待されると思われた。
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