研究概要 |
【目的】乳癌細胞はホルモン依存性の増殖をする代表的な細胞であるが、その機序については未だ明確でない部分も多い。そこで、すでに樹立されたヒト乳癌細胞に対してホルモンを含んだ血清成分の影響を受けない無血清培養を試み、乳癌細胞のホルモン依存性増殖機構およびホルモン療法剤の効果についての検討を行った。【材料および方法】American Type Culture Collection(ATCC)より購入したヒト乳癌細胞株ZR75-1(estrogen receptor : ER陽性、progesterone receptor : PgR陽性)およびBT-20(ER陰性、PgR陰性)を使用し無血清培養を行い、本培養法を用いてヒト乳癌細胞の初代培養を行った。細胞増殖度の測定は培養終了後コラゲナーゼゲルで溶解遠心して集めた細胞をトリパンブルー染色し血球計算板上で細胞数を測定した。細胞動態解析は培養細胞収集後、70%エタノール固定しpropidium iodide(P.I.)核染色後にEpics Flow Cytometer(Coulter, USA)にて核DNA量を測定し、PARAI soft ware programにて解析した。【結果】E2(17-β-estradiol)は低濃度領域においてはER陽性細胞の増殖を促進するが、高濃度においてはむしろ抑制した。高濃度抑制結果はER陰性細胞においても認められた。この抑制効果発現機序はERに優位に結合するTAM(tamoxifen)の細胞動態と比較するとTAMのそれに類似しており高濃度E2はTAMのbinding siteに何らかの影響を及ぼしていると考えられた。E2のERへの結合は培養24時間で有意にS期が増加し比較的短時間の間に結合した。Pgは濃度依存性に細胞増殖を抑制した。無血清による初代培養は線維芽細胞の増殖を最小限にとどめ、上皮細胞のきれいなコロニーを形成した。初代培養細胞はERの有無にかかわらず、E2により増殖が促進された。このことは癌細胞のheterogeneity、さらには乳癌のparacrineの増殖が示唆された。
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